論語マネジメント論
なぜマネジメントに論語なのか
論語は古くから日本人の考えの基礎になっています。人間修養のために先ずは貴族及び武士階級から教育の基礎として広まり、後に農民階級まで四書五経を学んでいます。明治時代に入り科学的な考えが日本に入ってきて四書五経まで理解できる人は少なりましたが、論語は長く読み伝えられています。その理由は、論語そのものは孔子とその弟子たちが純粋に個人の修養の結果、社会を良くするのが目的であったからです。ある意味で修養というのは、個人が自身の中で持つことができる心の支えです。
現在の社会はお金、学歴などが幸福の尺度になっているように思います。しかしこれらの尺度は人よりもあれば必ずしも幸せでなく、なくても不幸ではありません。あれば幸せなのだと思い込んでいることが問題なのです。
企業の中でも同様なことが起きています。利益の内部留保が目的になり過ぎています。それ以外はコンプライアンス、それらを総合的にガバナンスしています。現在のコーポレートガバナンスの目的は不祥事の防止と収益力の向上です。社員は不祥事を発生させる対象と見られている訳です。その結果、社員と経営陣に大きく溝が生まれて結果として生産性は上がらない状態です。つまり、社員と共に共有する価値観が欠如しているのです。
法律で不正を罰する必要はありますが、限界があります。法律以前に道徳があり、その徳心を個人の中に産み育てることが修養です。論語の中には現代に当てはめにくいものもありますが、時代とともに変化させていけば良いのです。
マネジメントを切磋琢磨することの必要性
マネジメントの考えには様々なものがあります。ドラッカーのような素晴らしい考えがありますが、今でもドラッカーの著作を読み続け、その時代の変化に合わせて応用し、現実の経営に生かしている経営者や管理者の声をほとんど知りません。私が知らないだけなのかも知りませんが、ほとんど多くの経営者や管理者は新たな考えを取り入れたがります。新たな考えは時代に対する適応性はありますが、実現性は乏しいものが多いのです。それは、誰でも真似ができるほどの経験値が足りないからです。少しは自分のものとして使いこなせるだけその理論に取り組み、あるいは自ら生み出し、変化に合わせるように工夫し、実践に移し、人に教えられるようになる必要があります。切るように、磋ぐように、琢つように、磨くようにです。
経済活動の本質を知ることがマネジメントの始まり
儒教に五常という考え方があります。仁義礼智信です。直接に孔子がまとめて定義しているものではありませんが、論語の中にそれぞれの言葉の意味や真理が問答されています。その五常をいかにマネジメントに生かすかがここでの課題です。
実際の経済活動に生かしていけないのならばただの理想です。それを実践し実証した二宮金次郎のご紹介をしましょう。
二宮金次郎とは
二宮金次郎は江戸時代後期の経世家、農政家、思想家である。二宮尊徳(たかのり)と大久保忠真に名を賜る。後に小田原藩士となるが元は相模国足柄の百姓の長男として生まれる。父の近隣の村人に対する返済を求めない貸金と度重なる不幸にあうも働きながら学業に打ち込む、この姿が後に小学校などに石像が置かれた。20歳で成果の復興に着手し成功を収める。青年時代には当時の小田原藩の家老の服部家の家政を立て直し小田原藩内で名が知られるようになる。その後、五常講を起こし、小田原藩主大久保家の分家の宇津家の領地桜町の再建に着手し村人の抵抗にあうも成功する。晩年に、幕府に召し抱えられ様々な再興復興及び仕法を実施し成功を収める。70歳で没す。
経験に基づく思考
当時は武士階級の経済観念の薄さ農業活動の生産性の低下が問題となっていました。それらに対する金次郎の仕法は過去の経験に基づくものでした。金次郎は子供の頃に本家の伯父万兵衛のところに預けられます。勉強熱心な金次郎は夜学に灯油を使いそれを万兵衛に禁止されますが、自分で菜種を植えて、それから油をとり灯油と交換し夜学に使ったようです。他にも、他の農家の余った苗をもらって少しづつ自身の田を増やしていったのも、後の「積小為大」に繋がるものです。必ずしも自分家のために使わず、手伝ってもらった賃金で堤防を強めるための松を寄進しています。これは「推譲」に繋がるものです。さらに自分で考え工夫しているのは知識に終わらさず実学として実践しています。
実践を支えるモチベーション
金次郎の行動を支えたのは思考だけではありません。貧乏という屈辱も支えとなっています。ある正月に大神楽一行が二宮家に来ますが静まり返り表に出てきません。その時、金次郎は必死に弟を押さえ一行が去るのを待つのでした。それは既に祝儀を渡す金がなかったからでした。その後、父母は亡くなり少しばかり耕した田畑も酒匂川の再氾濫により流し去ったのでした。しかし、そのことが二宮家の再興を誓うモチベーションになります。実際に服部家の若党になった時は、二宮家は自身で采配する必要がなく、後に出てくる五常講の資金すら持つ身分になっていたのです。
二宮尊徳五常講
ある日服部家の用人が経済的に余裕がある金次郎に貸金を依頼します。そこで貸金を承諾した金次郎はこんなことを言います。
「金の貸し借りで一番大切なのは約束を守るということです。」
「当たり前だ。約束は守るよ。必ず返す」
「ありがとうございます。その約束を守ってくださるということは、すなわち人倫五常の道でいう信だと思います。しかし、この信を行うためには、多少余裕がある人から、余裕のない人にお金を差し出すことが必要です。いわば推譲といっていいでしょう。これが仁です。そして借りたほうが約束を守って、正しく返済をすることが義といいます。また、約束を守った後、必要な金を推譲してもらったことを感謝して、その恩義に報いるために冥加金を差し出したり、また返済について決して貸し手に迷惑かけないように心を配ったり、さらに努力して余罪を貸付金に当てるときも、決していばったりしないこと、これを礼といいます。
また、どのように多くの余罪を生じ、借りた金を早く返すか、つまり約束を迅速確実に守るかという工夫をすることを智といいます。つまり、金の貸し借りといっても、こういうように人倫の道である仁義礼智信の五つが必ず伴っているのです」
童門冬二著小説二宮金次郎
小説ですので想像も含まれるでしょうが、これほど五常と貸金という経済活動が融合させた言葉はないでしょう。実際にこれをもとに世界初の協同組合となる五常講を後に設立しています。
入るを計って出を制す
これまでの経験と知識をもとに服部家の財政再建を行うことになります。二宮家を再興した金次郎が服部家の若党になったのは服部家の子供の勉強の手伝いを依頼されたからでした。しかし、その服部家は家政窮迫状態でありました。
ある日、別の他家の女中が貸金を願い出ます。先ほどの用人と同じようにどうやって返済するかを尋ねますが、借り手の収入を増やす方法を得しえるのでした。倹約だけではなくそこから個人の収入を増やさなくては返済はできません。
入るを計るというのは知恵を出し収入を増やすことなのです。ここまで言うとお分かりのように皆様も菜種のことを思い出すでしょう。
そもそも服部家もその用人も他家の女中もなぜ貸金が必要だったのでしょうか。このころ既に諸藩ほとんど不良債権でどうしようもない状態に陥っていたのです。分度、つまり入るを計って出を制することを知らないからなのです。
話は変わりますが、現在金融機関が苦境に立っています。金次郎の活躍した頃、またはその後の成長期の日本は中小企業が数多くありました。サラリーマンが勤労し貯蓄した預金を資金が必要な中小企業が活用し循環することができていました。
しかし、最近では中小企業が減り経営者が減り、サラリーマンが多くなって貯蓄はしても資金が必要な先が現在はないのです。これでは金融機関も苦境に陥るのは当然です。
意識改革
服部家の再興に成功した金次郎は大久保の要請により大久保家分家の宇津家桜町の復興を行うことになりました。当時、桜町は農民は目の前の田畑を耕さず、飲む打つ買うに溺れ、査定では四千石であるはずですが、実際には一千石に満たなかったのです。服部家の再興では五常を始めとした金次郎の学問が生かされましたが、桜町では農民と向き合い考え方を改めさせなければならないのでした。大事だったのが心の復興なのでした。しかし、この経験によりのちの報徳仕法が完成されることに繋がりました。
蛇足ですが、私も経営コンサルティングを行っていると、経営手法を分かってもらえるクライアントにはスムーズにコンサルティングを行えても、そうでないクライアントになかなか成果が出ないことがありました。今考えれば、私が至らなかったのです。相手によって伝え方を工夫し理解してもらわなければなりません。
荒廃した土地を復興する資源は、そこに住む人間と土地以外にないと上杉鷹山を改革の手引きを送った細井平洲が言っております。
しかし、意識改革は農民だけに終わらないのです。それを管理する藩の官僚たちが金次郎の改革に抵抗するのです。時には年貢を横領し、藩主の命と理解しながらも農民上がりの金次郎に反抗し、現状を変えたくないという官僚主義もあり、改革に抵抗するのでした。しかし、こうした抵抗勢力も最後は協力をさせてしまう金次郎でした。こうした意識改革を心田開発と呼んでます。
最後に
論語は主に孔子と弟子の問答が中心です。それ以外に弟子同士の問答や孔子と時の実力者との問答がまとめられています。その内容も直接にマネジメントに関わるものはあまり多くはありません。しかし、時折問答に出てくる言葉は具体的で普遍的なものばかりです。マネジメントの分類で、仕事の管理、仕事の改善、人の管理、人の育成指導の4つに分ける方法です。応用方法ところで1つづつ紹介していきます。