孫子兵法戦略による戦略篇

強者の戦略

孫子の兵力に差における戦略の立て方は明確であります。

味方が十倍であれば敵軍を包囲し、五倍であれば敵軍を攻撃し、倍であれば敵軍を分裂させ、等しければ戦い、少なければ退却し、力が及ばなければ隠れる。

兵之法、十則圍之、五則攻之、倍則分之、敵則能戰之、少則能逃之、不若則能避之。(謀攻篇)

しかし、弱者の戦略については多くを述べていますが、強者の戦略についてはあまり多くを語っていません。
そこで他の戦略から参照してみてみます。

ランチェスター戦略の田岡信夫氏は、「強者の戦略の順序は、商品ナンバー・ワン、得意先のナンバー・ワン、地域のナンバー・ワンという順序で戦略を立案する。つまり強い商品を持っているということが勝者の条件である。」

ある業界の商品は海外からの提携によって商品が作られていたがこれまでの商品と明確な差別化がありました。何よりその商品による顧客へのメリットは抜きんでいました。この商品をもとに大手企業にたくさんの顧客を持つことができました。
つまり商品ナンバーワンと得意先ナンバーワンを果たしていったのです。しかしながら、価格の高さから地域ナンバーワンを作ることができませんでした。ここでいう地域ナンバーワンとは、中堅以下の企業を指します。
この間、競合企業は弱者の戦略を実行していきました。弱者の戦略は、先ほどの強者の戦略とは反対です。つまり地域ナンバーワン、得意先ナンバーワン、商品ナンバーワンの順です。強者の入れない中堅以下の顧客に足場を固めていったのでした。

元マッキンゼー社の大前研一氏は、「大企業の打つべき手は、中小メーカーのための窪みにいかに栓をしてしまうかです。」

前の企業の例に戻りますとこの企業は価格の高さから地域ナンバーワンになることができない理由として、大企業だと多くの商品を販売することができるので、量的な割引が可能でありますが、中堅企業以下ですとそれが適用できないのでプラグ戦略が選択できなかったのです。

また、競争戦略のマイケル・ポーターは、コストリーダーシップ戦略の必要な要素として資金力はコストの低いシステムを上げていることからこちらも強者の戦略に入ると思います。

統合マーケティングの嶋口充輝氏は、リーダーの戦略方針は全方位化としています。

楽天は、サイトを中心に全方位化を進めています。商品以外に旅行、書籍、金融、サービスなど様々に包囲を広げています。しかし、アマゾンはカテゴリーを増やしているものの楽天ほどではありません。

中位者の戦略

強者と弱者の間にある中位者は、「倍であれば敵軍を分裂させ、等しければ戦い」に入るところかと思いますが、ここも孫子は多くを語っておりませんので、他の戦略を参照します。

統合マーケティングの嶋口充輝氏は、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーを競争地位の類型化としております。ニッチャーは特定市場のを選定していますので、別の方向ですが、戦略方針としてチャレンジャーは差別化、フォロワーは模倣化としております。

戦略として競争地位を考えずに何でもかんでも差別化だとする考え方がありますが、リーダーと対比できる位置に来ないと顧客からあの商品と何が違うのと質問が来ません。それより競争地位が低い場合には、先ずは上位の真似をして信頼してもらうことから始めなくてはいけません。

 

弱者の戦略

1.先制攻撃
先に手を打つ利点は相手が後手になることです。後手に回ると先手の対応に回ることになり自身の意思がなくなってしまします。

孫子曰、凡先處戰地、而待敵者佚、後處戰地、而趨戰者勞。故善戰者、致人而不致於人。能使敵人自至者、利之也。能使敵人不得至者、害之也。故敵佚能勞之、飽能饑之、安能動之。(虚実篇)

2.自軍の態勢を隠す
こちらからは相手を観察するが相手からはこちらの手の内を見せないことです。相手はどこを攻めてよいのか守ってよいのかが分からなくなります。

出其所不趨、趨其所不意。行千里而不勞者、行於無人之地也。攻而必取者、攻其所不守也。守而必固者、守其所不攻也。故善攻者、敵不知其所守。善守者、敵不知其所攻。微乎微乎、至於無形。神乎神乎、至於無聲。故能爲敵之司命。(虚実篇)

3.虚を突け
虚を突くことによって思いもよらないところを攻められるので、心理的な効果が高まるのです。

進而不可禦者、衝其虚也。退而不可追者、速而不可及也。故我欲戰、敵雖高壘深溝、不得不與我戰者、攻其所必救也。我不欲戰、畫地而守之、敵不得與我戰者、乖其所之也。(虚実篇)

4.集中してかかれ
こちらが弱者ならば全体的な攻め方は不利になります。こちらは隠れ虚を突き相手を分散することができればその分散されたところに集中して攻めかかります。

故形人而我無形、則我專而敵分。我專爲一、敵分爲十、是以十攻其一也。則我衆而敵寡。能以衆撃寡者、則吾之所與戰者約矣。(虚実篇)

5.無謀な戦いはするな
きちんと計画を立てて、予定通り実行するから、予定通りにならなくてもその対応ができるのです。

不知戰地、不知戰日、則左不能救右、右不能救左、前不能救後、後不能救前。而況遠者數十里、近者數里乎。(虚実篇)

6.積極的に動け
こちらが動きその対応の仕方で相手の強みや弱みを知ることができます。そうすれば相手が多くまたは大きくとも勝機が見えてきます。

勝可爲也。敵雖衆、可使無闘。故策之而知得失之計、作之而知動靜之理、形之而知死生之地、角之而知有餘不足之處。(虚実篇)

7.型にはまらず自由に攻めろ

理想の形は無形なのです。

故形兵之極、至於無形。無形、則深間不能窺、智者不能謀。因形而錯勝於衆、衆不能知。人皆知我所以勝之形、而莫知吾所以制勝之形。故其戰勝不復、而應形於無窮。(虚実篇)

8.水のように動け

水のように場所に合わせて形を変える、状況に合わせて作戦を変える。

夫兵形象水。水之形避高而趨下、兵之形避實而撃虚。水因地而制流、兵因敵而制勝。故兵無常勢、水無常形。能因敵變化而取勝者、謂之神。故五行無常勝、四時無常位、日有短長、月有死生。(虚実篇)

ビジネスなら
1.最初にやれ
2.看板を掲げるな
3.思いまよらないところに出店しろ
4.一番店の弱いところをやれ
5.一か八かはやめろ
6.こちらから仕掛けろ
7.同じことはやるな
8.柔軟に変えろ

三角形曼荼羅による戦略チェック

以前、大分流感驚楽による発想法で紹介した三角形曼荼羅曼荼羅を使い戦略チェックする方法をご紹介します。先ずは大きく三角形を描き頂点は顧客右下に競合、左下に自社を書きますそれぞれの中間地点にポイントを置き戦で結ぶと逆算家計ができます。
競合と自社の力の差を見比べて全方位化、差別化、模倣化、集中化(ニッチ)のいずれかを選択し中央に記入します。空いている上のマスには現在自社が顧客に行っている行動、右下ののマスには現在競合に行っている行動、そして最後に左下のマスには中央の基本戦略と現在行っている顧客や競合に対する行動のギャップと改善策を検討していきます。

情報収集

競合の情報を集めるのにお金や労力を惜しんではいけない。

孫子曰、凡興師十萬、出征千里、百姓之費、公家之奉、日費千金。内外騷動、怠於道路、不得操事者七十萬家、相守數年、以爭一日之勝。而愛爵祿百金、不知敵之情者、不仁之至也。非人之將也、非主之佐也、非勝之主也。(用間篇)

孫子は用間つまりスパイの重要性を説く。しかし、競争においてスパイの重要性は差し控える必要性があるので、情報収集の重要性と読み替えて考えたい。
そもそも現代の戦略において外部情報の収集及びその分析の重要性は、あえて強調するほどのことではなく誰もが知っていいることでしょう。
戦略の歴史を遡っても戦略計画学派は戦略立案の過程で外部環境分析を行っています。例えばそれをもとに、SWOT分析で自社の強みと弱み、機会と脅威に整理します。
また、そのような学術的な引用をせずとも何らかの戦略的行動を計画する際に、顧客や競合の情報が必要なことは経験的に理解しているでしょう。
孫子がいたころと違って現在は情報社会なので、情報収集がしやすいとも言えます。インターネットや有料の調査報告、外部調査会社に調査を依頼することもできます。データマイニングで解析することも可能です。ただし、逆に情報収集もされやすいとも言えます。

火を使う?

孫子の兵法に出てくる火攻めとは現代に当てはめると何でしょうか?ATOOSでは大きな資源を使う行動と考えます。成功すれば大きな成果が期待されますが失敗するとダメージが伴います。例えば、テレビコマーシャル、将来を見据えた大量の人材採用、高額な設備投資などが考えられます。