定見のマネジメント【後編】
攻めの戦略
経営は進化の手段
守りの戦略は道徳の器だが、攻めの戦略は進化の手段だ。環境は急激に変化している。同じことを行っていては顧客に飽きられる。スピードがますます速くなっている。効率の良い方が法新しく生み出されている。グローバル社会になると世界中の情報が入ってくる。知らず知らず世界中の競合と戦っているようなものだ。
我々、人間や組織も環境の変化に対応する形で進化する。ダーウィン諸島の雀のくちばしは島ごとに形が異なる。島どおしは近いが雀は小さくなかなか違う島に行けない。ごくたまに大風に乗って他の島に渡ることがあるぐらいだ。島の大きさや気候が異なるので島ごとに雀が食べられる食べ物が変わる。固い実を主食にしている雀はくちばしが大きく、小さな身を主食にする雀はさほど大きくはない。主食を市場と置き換えるならば企業もやり方を変えなければ生きていけない。
稀に環境が変わらない市場を相手にしていると長らく変えずにいられる可能性もある。しかし、いつ変化が起きるかは予想しがたい。かつて日本食の天ぷら、刺身、かつ丼は単価が高かった。それらを売っていいた蕎麦屋は街中で多くあった。日本の庶民食であった蕎麦屋はいつまでも日本であり続けると思われた。ところが、天丼専門チェーン、かつ丼専門チェーン、和食ファミリーレストランが誕生し普及していった。アイテムを絞るので蕎麦屋さんのようにロスがない。仕入る量が大量なのでコストを抑えることができる。チェーンなのでオペレーションも蕎麦屋より効率よくできる。などの結果、安価に提供することができるので、蕎麦屋は競争力を失い最近ではほとんど街で見かけなくなった。変化が起きずに付加価値が高いビジネスは、新規参入者に狙われやすい。日本のみならず、グローバルではGAFAがそれを世界中で行っている。
相剋の関係
太極は陰陽を生じ、陰陽は五行を生じ、五行は相生、相剋などを生じる。木火土金水は隣り合わせに相生するが一つ置きに相剋す。相剋は相手の弱みを利用して勝つということだ。水は火を消し、火は金を溶かし、金でできた刃物は木を倒し、木は土を押しのけて生長し、土は水をせき止める。このように、こちらの強みは相手の弱点に打ち勝つ。
守りの戦略を重視しようとして、相生として交流していきたいが同じパイの奪い合いとなり、またパイ自体を増やすことが容易ではない。
競争戦略
市場そのものが魅力的であり、他かから参入するのに障壁は低い。技術革新の要素を使えばより効率的にその市場のやり方を無力化することができる。買い手は規模が小さく交渉力でこちらが優位に立つことができる。売り手は規模が小さく交渉力でこちらが優位に立つことができる。など競争を前提にした場合の戦略というものは多い。そもそも、競争のない市場というものはほとんどない。圧倒的なリーダーとならなければ守りの戦略が通用しない。
守りの戦略がリーダーの戦略としてリーダーを脅かす三つの敵というものがいる。(逆転の競争戦略:山田英雄著生産性出版)それは業界突破者、挑戦者、侵入者だ。業界突破者は異質な他業界から同一性のある機能で攻撃してくる。業界そのものをなくしてしまう脅威がある。CDに対して音楽配信サービスがそうだ。侵入者は、隣接業界から参入し異種の経営資源で攻めてくる。リーダー企業は悪い場合には首位から転落する。ネット損保やネット生保などがあたる。挑戦者は、同一業界から攻めてくる。リーダーが追随しにくい差別化が武器だ。対応できないとリーダー企業は首位から転落する。
このようにリーダーは様々な競争に打ち勝たねばならない。無論、競争戦略は立場を変えれば攻めの戦略である。古今東西様々な戦略を戦略家たちは生み出してきた。既にATOOSでは、孫子兵法戦略、三十六計、五行市場論やその応用戦略を紹介しているので攻めの戦略についてはその記事を見てほしい。
競争戦略の防御と攻撃
責められるのはリーダーだけとは限らない。競争状態にあれば誰しもが攻撃の対象となる。また、自分たちの価値観を守るために攻めていく必要も生じる。競争戦略は強豪との果てしない戦いだ。かつて、競争戦略の大家のマイケル・ポーターは日本企業に戦略がないといった。日本企業は競合が何を行っているかよりも自社製品の品質向上と顧客のニーズ充足に集中していたというのである。
確かに、これまでの日本企業は、いや現在の日本企業の多くは他社の商品サービスと比較して優れているところを広告したりは少ない。ないとは言えないが、あまり大声で競合批判しない傾向が強い。顧客もそれを好まない傾向もある。しかし、現在はグローバル競争である。したがって競争戦略は必要だ。
誰が競争相手か
競争相手を同じ市場の同業者に限ったものではない。同じ市場の中にあってそれまでは調達先であった企業が川下に進出してくる場合がある。コクヨは文房具メーカーであるが通販を通じて小売りに進出してきた。コンビニは小売りであるがプライベートブランドを作りメーカーとして商品を並べている。これらは同市場内の競争である。
同じ市場ではないが近い市場から参入してくる場合がある。レストランが居酒屋を経営するなどがそれにあたる。運営の仕方が似ていると市場を変えるだけなのでリスクは少なくなる。
まったく異なる市場から、または全く異なる製品やノウハウを持って参入する場合もある。
これらをカテゴリー化して説明する人もいるがあまりATOOSは重視しない。どこから来るかの問題より何をやってくるか、何で攻めてくるかの方が現実的な問題だ。反対に、何でやるか、何で攻めるかを考え実行する方が重要だ。
正攻法としての基本戦略
ポジションが、リーダー(天子)、チャレンジャー(大国)、フォロワー(中国)、ニッチャー(小国)と別れた場合に取るべき基本戦略というものがある。リーダーの基本戦略の一つは多角化だ。多角化とは市場や製品を複数持つことだ。リーダーは、資金力や組織力を持つので複数に投資することができる。基本的には規模の経済が働くことが多いので単独の市場や単独の製品を作った方が効率的だ。しかし、市場そのものが大きくない、生産性を伸ばしてもそれに見合うだけの需要が見込めない場合には、他の市場や製品に進出する。楽天市場が良い例であろう。小売市場だけでなく、携帯キャリア、銀行、クレジットカード、証券、旅行などと水平的多角化と垂直的多角化を行いながら拡大している。もう一つのリーダーがとる基本戦略は模倣化だ。リーダーはチャレンジャーからあるいはフォロワーから挑戦を受ける立場だ。彼らが行う差別化や集中化の攻撃に対して模倣してしまうことにより無力化させる。
チャレンジャーの基本戦略の1つ目は、差別化である。リーダーはより多くの需要を取り込むために中程度の品質と中程度の価格帯で構成する場合が多い。チャレンジャーは、リーダーと異なる品質と価格帯で差別化された戦略をとる必要がある。自動車メーカーは、長い間ガソリンエンジンで自動車を駆動させてきた。それに対し、テスラや中国メーカーは電気自動車に力を入れている。ワークマンは、元々は作業着を販売していたが最近ではアウトドア、スポーツウェアなどを取り扱いようになり同等の機能を持つ専門メーカより1/5から1/10の圧倒的な価格差で差別化している。チャレンジャーも多角化を目指す。リーダーほど全方位に多角化はできないが、対象を絞って多角化し将来のリーダーとなるように準備する。
フォロワーの基本戦略の一つは模倣化である。リーダーの模倣化は挑戦を受けて出てきた頭を抑えるように模倣化するが、フォロワーの模倣化はリーダーの模倣である。顧客のニーズは、リーダーの品質や価格と比較することが多い。体力勝負になることは模倣できないが、それ以外は顧客ニーズを満たすために模倣する。もう一つの戦略は、集中化である。フォロワーは体力がないので多角化はできにくい。対象とする市場や製品を絞って集中する。軽自動車メーカーは軽自動車という法的に制限された市場に技術などを集中する。これまでは他の自動車メーカーのこぼれた市場を狙う存在だったが、セカンドカーの需要、所得の頭打ちが軽自動車人気を作っている。
ニッチャーの基本戦略も集中化だ。フォロワーの集中化と異なるのは、市場を絞っても全国販売のような販売網を作ることはできない。また資金力もないので在庫を抱えることもできない。光岡自動車のように主に受注生産で特殊なニーズを充足する製品に絞る必要がある。同時に差別化も必要だ。他のポジションが行う製品を作っても品質や価格ではかなわない。ATOOSでは、五行市場論によるスモールスプリング戦略を説明している。需要や市場は探すだけではなく作ることもできる。スプリングつまり、泉を作るのだ。泉からはどんどん水が湧いてくる。独りの顧客から何度も購入していただいたり、別の商品を購入してもらう戦略だ。
奇法としての応用戦略
正攻法としての基本戦略だけで戦うことはできない。基本戦略は定石なので相手が基本戦略を知っていればあまり役に立たなくなる。孫子は勢篇で「凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ」という。つまり、正攻法で基本的に有利な状況を作り、奇法で打ち勝つというのだ。しかし、奇法は状況によって変わる戦法なのでより多く、また変化する。正攻法と奇法の組み合わせは無限となり相手もそれを見通すことは不可能だ。
ATOOSが考える奇法は連続と非連続、強化と緩和の組み合わせである。連続とは、製品の継続が連続しており、それを技術や販売方法の変更などにより向上させようというものである。非連続は製品の継続が連続しておらず、製品に対しての思いれやこだわりは少ない。強化というのは、連続や非連続によって製品のアイテムを増やしたり品質の向上を目指すものである。緩和は、連続や非連続によってアイテムを絞ったり、人件費を削減したり、工程を削減して差別化を図るものである。
それぞれの事例を紹介しよう。連続と強化の組み合わせは、戦略的自由度型である。これまでの連続した機能を持つ製品をより高機能にしていく電化製品のような戦略である。オーブンを電気式にし、電子レンジにし、ターンで回し、料理ごとにタイマーを付けというように機能を付加していく。製品だけでなく、ベクトルを変えて、支払を現金一括から月払い、クレジット払い、ボーナス払い、ポイント付与、ポイント支払いと使える選択肢を増やしていく。技術や販売方法が連続しているので検討しやすく改善などの手法が使えるので実行と継続がしやすい。ファンクションとベクトルの2つの要素で構成され、ある程度積み重なったら、別のアイテムを積み上げていく。この戦略の強みは、現状の経営資源が生かせること。弱みは他の戦略から攻められやすいことだ。
連続と緩和の組み合わせは、専門特化型である。これまで連続して積み上げてきた競合のベクトルやアイテムを絞り込む。強みは、絞り込むことで効率化したりボリュームディスカウントなどが可能となり競合に価格的差別化を行うことができる。弱みは、よほどの定番商品でないと需要が落ちる可能性を秘めている。天丼のてんや、かつ丼のかつやなどがこの範疇に入る。
非連続と強化の組み合わせは、新技術強化型である。主に、デジタルやオンラインの技術を使い連続した分野に挑む。これまで小売店舗で販売していたものを、オンラインで販売する。Amazonや楽天市場などが代表格だ。強みは、オンラインで販売するために販売の人件費、商品の在庫投資、地代家賃などが抑えられる。あるいは現物だと在庫投資に制約があるが案ラインだとロングテールに品揃えがしやすくなるので販売の機会損失が減る。あるいは、オンライン販売の中同士でもマーケティングスキルを駆使し販売量を増やすこともある。青汁王子のケースもそうだ。YouTubeのように過去の動画の視聴料で何度も報酬を得ることができるのでよりビジネスの競争力が高くなる。デジタル強化型は商品に思いれは薄く、販売が伸び悩んだら別の商品に変わることも躊躇がない。デジタル以外でもエンジンに対してモーター、CDに対し音楽配信、不活性化ワクチンに対しmRNAなどのように新技術を持ち込み対抗する。連続した技術の企業はこれまでの積み上げたコストがあるので簡単に変えられないので追随に躊躇することが多い。弱みは、新技術はより新たな新技術に駆逐される可能性があることだ。
非連続と緩和の組み合わせは、資産削減型である。技術革新、規制緩和、経済危機などの変化に乗じて、非連続した技術を使い、主に絞り込んだ提案を行う。Zoom、テスラ、コインビット、PayPayなどがこの範疇だ。戦略的自由度型、専門特化型、新技術強化型のすべてに挑戦を挑んでくるのが特徴だ。専門特化型に対してはテクノロジーで、新技術強化型に対しては価格的差別化で、戦略的自由度型に対しては両方で対抗してくる。強みは、世の中の変化に対応した形で登場してくるので注目されやすい。弱みは、多額の投資が必要になるので黒字化に時間がかかることだ。
競争戦略は幅が広いので、まだすべてを抑えきることはできていないが、基本戦略、応用方法を念頭に置くことで攻撃と防御のヒントになるだろう。
最後に
経営者の意思も資産も人間が生み出すノウハウ、技術、あるいは感情もすべては自然から生み出され陰陽に別れ、五行が生まれ、相生・相剋などの関係性ができ、混とんとなりまた陰陽を繰り返し太極に返る。我々の目の前で繰り返される、創造や破壊もそのわずかない一瞬にしか過ぎない。なのに我々はその幸福や苦悩が永遠に続くように考えてしまいがちである。
かつて二宮金次郎は成田山で籠った後に一つの円を描いた。善と悪、生と死、暑と寒、清と濁、治と乱、すべて二つの世界に分けられたいたと思っていたことが、一つ円の中に入れてしまえば陰陽のように、すべては巡り、すべては一体なのだと覚知する。
攻めの戦略と守り戦略も同じ。不易流行で一つの円に入れてしまえば、金次郎の境地に少しだけ近づけるかもしれない。