財務マネジメント

普遍的マネジメントにおける財務マネジメントの位置づけ

 財務マネジメントというと、従来は財務診断や投資判断の材料として扱われてくることが多かった。例えば、財務診断では財務諸表を分析し安全性や収益性、成長性などが他社と比較してあるいは過去と比較して悪化しているか良くなっていることを調べるのである。 投資判断でも、投資をしてリターンやリスクがどの程度なのかを調べるものであった。

 しかし、中小企業においてこれらのやり方は必要性の優先度は低い。何故なら、過去と比較しても、それまでの間は分からない。それよりも今の状態が分かることの方が優先順位が高い。たとえて言うならば、財務診断は車の定期点検みたいなものである。それよりも、今の状態を判断できるものが欲しい。例えるならば、スピードメーターや燃料計だ。

 それは、普遍的マネジメントの見える化の数値化、即時化である。今の状態を数値で即時で目に見えるようにすることが重要なのである。

ある大手質店の日次決算

 月次決算というのはよく聞く話だが日時決算となると話が変わってくる。毎日決算をするというのは、現金を毎日締めるのとな訳が違う。売掛金、買掛金、借入金、売上高、仕入高、販売管理費、経常利益などを毎日締め決算を行うのだ。ある大手質店は、毎日午後になると決算の準備を行う。経理だけではなく、店舗では在庫を数え、伝票を集計し、その後経理が総勘定元帳を作成し、残高試算表を作るのだ。今では、会計システムで行っているようだが、以前は手作業でやっていた。なぜ、このような負担をかけて日時決算を行うのかといえば数値化、即時化の大切さを理解しているからである。今ではそれほどの負担がなく日次決算ができるであろう。

財務マネジメントの結果は各マネジメントの成果によって

 財務マネジメントは、単独で語ることはできない。それは各マネジメントの成果によって財務マネジメントの結果を決めるからである。例えば、業務マネジメントのボトルネックを解消すると、それは財務の数字を良くすることにつながる。収益の向上も業務の生産性を向上してもたらされるのだ。顧客マネジメントも同様だ。マーケティング活動の成果が財務の数字を良くする。人材マネジメントの生産性の向上の成果が財務の数字を良くするのだ。

税務会計より管理会計

中小企業によっては会計というと、税理士に資料を持って行って処理してもらい、残高試算表や税務申告書を作ってもらうことだと思っている人が多いのではと思う。それはいわゆる税務会計のための活動だ。主に税金を支払うための活動が主だ。もちろん、決算書を作成することにより経営に役立つ資料は作成される。しかし、ここで重視するのは管理会計の数値だ。

財務マネジメントの4つのステップ

 財務マネジメントを企業の成長や体力に合わせて4つのステップで進めることを勧める。もちろん成長が早かったり体制が整っていれば早期にステップを進めればよい。

ステップ1:決算の早期化、視覚化

 日次決算は無理だとしても月次決算を目指そう。会計処理を税理士事務所に頼んでいるのなら早目に処理してもらおう。税理士事務所には繁忙期がある。年末調整を処理する年始から1月あたり。3月決算を処理する5月あたりだ。自身がそんなに忙しくなければ、自分で会計処理を行おう。税理士事務所とデータを共有できる会計ソフトを使えば日次決算も夢ではない。

 科目設定などに神経質になることはない。最初は現金か預金か費用か収益かが分かれば良しとするぐらい気持ちで処理しよう。間違ってれば、税理士に直してもらえば良いし、すぐに分かるようになる。 個人事業主ならアプリでも処理できる。毎日の支出をアプリで処理すれば簡単だ。

 

ノーコードアプリの活用

管理会計として、ノーコードアプリを使ってみよう。ノーコードアプリとは、コードを使わないで開発できるスマホ用のアプリだ。コードを使わないのでプログラムを知らなくても開発できる。つまり、自社開発が可能なのだ。また、スマホで入力できるので、いつでもどこでも入力できる。つまり即時性が高まることが期待できる。例えば、管理会計として、顧客定着率という指標を設定する。そして、ある一定の期間を置いて、新規顧客、既存顧客、解約顧客の数を入力しておくとアプリが計算してくれる。

ノーコードアプリによって異なるが、GLIDEはGoogleスプレッドシートからアプリを作成することができるので表計算が計算できる範囲なら複雑な計算も瞬時にできる。その計算結果も全員で共有できるので、紙などに出力する手間もなく即時性は完璧だ。

ステップ2:KPIマネジメントの整備

 指標は多いほどいいというものではない、大型航空機のような多くの計器を使いこなせるのには長い訓練が必要になる。重要な管理指標に絞ってマネジメントするのがKPIマネジメントだ。KPIマネジメントで重視するのは4Kだ。それは、KGI(重要目標指標)、KPI(重要業績評価指標)KFS(成功要因=ボトルネック)、KA(重要活動)の4つだ。KGIは、事業が目標とする重要な指標である。基本的にはROIになることが多いが、戦略的に当期利益や売上高やシェアに設定する場合がある。KFSは、KGIを達成するために障害となっているボトルネックを指す。このボトルネックが解消されれば、その事業は成功するからだ。KPIは、そのKFSを解消するための重要業績評価指標だ。そして、KAはそのボトルネックを解消するための手段だ。

 仮に当期利益0.3%向上をKGIとする。このKGIを向上させているボトルネック(KFS)を探していく。(この探索プロセスは、業績マネジメントに詳しく説明しているのでここでは省く)そしてそれが顧客の定着率の悪さだとする。なのでKPIは顧客定着率となる。そしてこれを改善するのは、KAなので、顧客離脱防止の活動、従業員の接客技術の向上、新規顧客獲得キャンペーンの実施などを行う。

 KPIは改善されたら次のボトルネック(KFS)を探索し実行を繰り返していく。

 部門管理などもこの段階で整備していく。

ステップ3:予算による業績のコントロール

 成長を軌道に乗せていくためには、予算管理の導入は重要だ。しかし、中小企業によって予算管理は少しハードルが高いのではと思うかもしれない。しかし、予算管理というより計画の策定と実行を行うための延長線上にこの予算管理があると理解してもらいたい。

 中小企業にとって、事業の行く末は神のみぞ知るという領域だったのに違わない。しかしながら、そんな偶然に頼った事業運営では心もとない。確かに、誰も将来を見通すことはできない。コロナ禍であのようなことになるなどとだれが予想できていたであろう。しかし、計画とは未来を予想するものではない、1年後ある数値や状態を目標にする。それを達成するためには、どのような活動を行うか計画する。そして途中で目標通りにいかない場合には追加修正を行い軌道に戻していくのが計画である。予算も同じで予算通りにいかなければ、追加修正を行う。そしてそれを繰り返すことで計画と実績の乖離は徐々に少なくなり計画の精度は向上していくのである。計画を策定しなければ、その能力を獲得することはできない。いつまでも行き当たりばったりを繰り返すようになる。

ステップ4:経営計画の整備

 経営計画とは、事業の先行管理である。ステップ3の予算管理は1年の財務の先行管理であるが経営計画は事業全体の先行管理だ。しかも1年ではなく3年の中期経営計画を作ろう。後ほど別に定見のマネジメントで説明するが、中期経営計画は戦略上今後の方向性を決める重要な決定事項である。

 しかし注意は必要だ。90年代前後に小さな経営計画ブームがあった。当時は様々な会社で経営計画は作られた。会社の経営管理のスタッフが主導で計画を立て現場は実行するだけだった。しかし、スタッフは現場の変化に気づかずあるいは見ようとせず、環境に適応できずに誤った方向へ会社を導いてしまった。このような過ちを繰り返してはいけない。

 だから、計画はより小さく作り、決して体裁や発表に仰々しく行ってはいけない。それよりも、追加修正のための問題解決能力の向上に力を注ぐようにするのだ。

必要資金を増やす

 管理会計とともに重視されるのは資金繰りだ。いや、一番重要である。人間は四肢を痛くしても、多少臓器が痛んでもすぐには死なないが、大量出血するとすぐに死んでしまう。事業も同じで、資金は事業の血液だ。そのためには資金をより多く作り出し、あるいは無駄に使われていないかを常にチェックする必要がある。

 資金はフローとストックに分かれる。フローは、ある一定期間の中の資金の流れであり、売上、仕入、販売管理費、人件費、その他の支出、利益によってあらわされる。フローを高めるには、当然収入を多くし、支出を抑える、あるいは生産性の向上で効率を良くすることだ。

 ストックは、バランスシートの科目に溜まっている資金だ。現預金、売掛金、在庫、設備投資、その他の投資と買掛金、借入金だ。ストックは利用されていない、もしくは換金化できない状態になっていないかのチェックが必要だ。売掛金は過去と比べて増加していないか。手形などのサイトが伸びていないかをチェックする。在庫にはデットストックがないか、不良設備や不使用設備がないか。時価換算したら減少している投資や土地はないかをチェックする。逆に買掛金は増やした方が金融効果として資金は楽になるが、売掛金、受入手形、買掛金、支払手形が増えると連鎖倒産の温床となる。または無借金経営は望ましいが、いざ必要な時に銀行借入ができにくい状態は望ましくはない。

 基本的には財務のプロセスは、漏れプロセスだ。業務プロセスで説明したが、もう一度説明する。

漏れプロセス

漏れプロセスとは

漏れプロセスとは、インプット、プール、アウトプットの3つの要素を持っているプロセスだ。例えば、人事のプロセスは①採用、②教育と異動と評価、③退職という3つのプロセスがある。

人材が足りないと①採用を急ぎたくなるが、②退職をしてしまう原因、③教育と異動と評価が不十分だといくら採用しても次々と退職してしまう。このように、注いだ水が漏れるかのように進んでいくプロセスが漏れプロセスだ。

漏れプロセスの強化

漏れプロセスを強化する場合には、漏れを先に防止することが重要だ。人事プロセスなら③退職の防止策の検討、②教育と異動と評価の見直し、①採用の強化の順番に考えていくことが必要になる。例えば、会員ビジネスなら③会員の退会防止策の検討、②会員サービスの見直し、①会員募集の強化の順になる。市場シェアを上げるなら、漏れた市場にたいして、提供しなかった製品やサービスを出すことは可能か、カバーしなかった顧客にアプローチできるか、競合で失った顧客に対してどんな手が打てるかを検討する。

 資金に置き換えると

 資金の流入(インプット)、企業の財務価値(プール)、資金の流出(アウトプット)のプロセスになる。先ずは、支出を最小化させる。業務マネジメント、人材マネジメントを通じて創出する付加価値を最大化させる。最後に顧客マネジメントを通じて資金の流入を増やす。全体を財務マネジメントで管理する。

収益性改善プログラムを実施する

 収益性を改善するためには自社の収益の構造がどのようになっているかを理解しなければならない。しかし、中小企業の多くは自社の収益の構造がどのようになっているのかを理解していない。

 ここで経営者とコンサルタントの質問により収益の構造がどのようになっているかを調べていく。

プロフィットツリー

経営者:「最近利益が上がらなくて困っています」

コンサル:「そうですか、最近の債務資料を見せてください」

経営者:「はい。これです」

コンサル:「確かにROIが減少しているようですね。経常利益も昨年と比べて3%減っています。売上はほぼ変わらないので原価が増えているようです。変動費が上がっている原因はなんですか?」

経営者:「変動費とは何ですか?」

 ここで話がストップする。科目なら資料に載っているので分かるが、変動費や固定費などの資料に載っていない費用を質問すると、このような状況になることが多い。

 変動費とは収入の多少に変動して発生する費用であり、固定費とは収入の多少に関係なく発生する費用だ。仕入高などは収入によって変動するので変動費、家賃などは収入に関係なく固定して支払うので固定費という具合にだ。

コンサル:「仕入高が増えているようですが、どうしてですか?」

経営者:「原材料の木材が高騰して仕入高が上がってしまっています」

コンサル:「人件費が発生していますが、どうしてですか?」

経営者:「中途採用で未経験者を一人採用しました」

コンサル:「車を購入されているようですが?」

経営者:「採用した者が使う車両を買いました」

 この質問によって、おおよその収益構造が分かる。

ROI(総資本利益率)が悪化している原因は、原材料の高騰による変動費の上昇と未経験者採用による固定費の上昇によって経常利益は減少し、車両購入による固定資産の増加によって総資本は増加しました。よって総資本利益率の分子は減り、分母が増加していることが収益性を悪化させている理由なのだ。

コンサル:「分かりました。収益性というのは経常利益を総資本で割ったもので分かります。御社の場合は原材料が高騰し変動費が増えました、人を採用したことで固定費が上がりました。それによって経常利益が減ったのです。さらに、車両購入して総資本も増えました。そうすると利益が減って総資本が増えたので利益が減ったと感じられる理由です」

 これらはツリー図によって表わすことができる。図解して説明した方が理解が進むだろう。

 簡単な収益構造なら先ほどのような財務資料を見ていくつか質問するだけで収益悪化の原因は分かるが、もう少し事業規模が大きいとそういう訳にはいかない。より突っ込んだ分析が必要だ。

収益改善のステップ

ステップ1:原価科目の分解

 製造原価と販売管理費で構成される原価を変動費と固定費に分解する。

ステップ2:損益分岐点分析

 ステップ1で分解した変動費と固定費をもとに損益分岐点分析を行います。

ステップ3:費用科目の原因分析

 損益分岐点で分析した結果は、売上高を向上することによって改善する。変動費を下げることによって向上する。固定費を下げることによって向上する。の3つに分けられますので、このうち、どこが改善に早くたどり着けるかを考えます。

 

 戦略との整合性の確認

 ここで注意する必要があるのは、収益を中心にして改善策を検討すると、原価を減らすことを中心に考えがちです。それにより提供する質の低下や高付加価値の向上に改善案が偏りがちです。そうすると、俺のフレンチのような原価率を高くして競合他社より安価なメニューを提供するなどという発想がなかなか出てこなくなります。

 そこで立ち返るのは自社の基本とする戦略です。自社が天子(リーダー)ならば、全方位に、模倣で、非価格競争で他社に対抗する。大国(チャレンジャー)ならば、差別化する。差別化の対象は、製品、価格、チャネル、プロモーションの4Pのいずれかか全てだ。中国(フォロワー)ならば、上位者の製品を模倣化し安価に提供する。小国(ニッチャー)ならば、基本は集中化だが、五行市場論によるスモールスプリング戦略も勧める。別途に解説しているのでそちらを見てほしい。

ステップ4:改善感度の分析と目標値設定

 ステップ3で原因分析したら改善策をイッシューツリーにして解決策を出す。複数案考えられればどの案を採用するか、どこまでやるかを改善度の分析と目標値設定で決定する。改善度とは改善案がいくらかかるか、いつまでかかるかの2軸で9個のマトリクスを作り、1から3のポイントをウェイトを付け、それを改善感度とする。

 目標値は、費用金額を金額もしくは割合で数値目標にする。

 最終的にその改善案は感度分析の優先性の高いものから順に、目標値が達成されるまで実施する。

 他のKAとの整合性を確認する

 改善活動は、財務マネジメントだけではなく他の各マネジメントの改善のKA(重要活動)とリソースの調整を必要とする。何もかにも一度に行うことはできないのだ。そこで重要になる考え方が戦略の自由度である。

 戦略の自由度

 戦略の自由度とは、マッキンゼーが考えた戦略的に改善活動を行うベクトルの方向と改善ステップを事前に決めておくというものだ。

 ATOOSでは業務マネジメント、人材マネジメント、顧客マネジメント、財務マネジメントの各マネジメントにレベルアップするためのKAを事前に決めておく。勿論、環境の変化や戦略の変更によってその内容は変更する時もある。成長を止めるのは制約があるから制約は解除の対象である。しかし、KAを変えてスパイラルアップしていけば成長軌道は保てる。メリットは、戦略の自由度を決めておけば迷わない悩まない従業員が分かれば先に動いてくれる。外部も分かれば提案してくれる。適切な情報が適切な時期に手に入る。

最後に

 企業活動によって得られた一部の成果は、財務によって現れる。その成果は、一番努力した経営者に還元されるべきかもしれない。しかし、その還元されるべき成果を再投資すればより多くの還元が期待できる。これは金銭的なことに限定されず、人間的にも、精神的にも、様々な事柄についてより成長の機会を与えてくれる。願わくばこの期待が全ての経営者へ届いて欲しい。